乳癌の発生率や死亡率は、欧米と日本では大きく異なっており、その原因の一つとして脂肪摂取の違いが上げられる。すなわち、前者ではn-6系の多価不飽和脂肪酸(主にリノール酸)、後者ではn-3系の多価不飽和脂肪酸(主にEPAあるいはDHA)を多く摂取することが知られている。実験的にもリノール酸は乳癌の発生、増殖、転移に促進的に働き、EPAあるいはDHAはそれらに抑制的に働くことが知られている。そのため、乳癌の多い欧米のみならず、増加しつつある日本でも、EPAあるいはDHAは乳癌の予防および治療の点から注目を浴びている。そこで、In vivoおよびIn vitroの研究でリノール酸、EPAおよびDHAの作用機序について研究し、次の結果を得た。 (1)リノール酸は、マウスに移植したホルモン非依存性乳癌(MM48)の増殖および転移を促進し、EPAおよびDHAはそれらを抑制した。 (2)リノール酸は、In vitroでヒト乳癌細胞(MDA-MB-231)のProstagland in EやLeukotriene Bの分泌、および細胞増殖を促進した。しかし、EPAおよびDHAはそれらを抑制し、EPAの抑制はn-3/n-6比が1:0.69、DHAのそれはn-3/n-6比が1:2.08以上で認められ、更にそれらの抑制は培地中のLeukotriene BよりもProstaglandin Eの濃度と相関することが明かとなった。 (3)リノール酸は、In vitroでヒト乳癌細胞(MDA-MB-231およびMCF-7)の増殖を促進し、更にMCF-7乳癌細胞ではc-mycの発現を促進することが明かとなった。 以上、リノール酸、EPAおよびDHAの乳癌に対する作用機序はアラキドン酸代謝産物やc-mycなど癌遺伝子が関与していることが示唆されたが、依然、不明な点が多い。しかし、EPAあるいはDHAは乳癌の予防および治療において重要な役割を果たすと思われる。
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