研究概要 |
癌性胸腹水は末期癌患者のQuality of lifeを大きく左右する病態である。癌細胞の胸腹膜播種についてはin vivo,in vitroで若干の検討はなされているが、癌性胸腹水発症、進展の詳細な機序は未だ不明の点が多い胸腹膜中皮細胞は胸、腹腔内最表層に位置し、物質透過の制御装置として働いており、その機能破綻により容易に胸、腹水貯留が引き起こされると考えられる。以上の背景をふまえ、我々は今回の研究で、癌関連サイトカインの一つであるTGF-βの腹膜中皮細胞に与える影響を明らかにした。本因子は今回検討した47例の癌性胸腹水症例中、85.1%(40例)に1.0ng/ml以上の濃度で検出され(ELISA法)、原発組織が大腸の場合に高濃度の例が多かった。腹水中、胃癌細胞によるTGFβ-mRNAの産生がin situ hybridizationにより証明されたことにより、癌細胞がTGF-βの主な産生源であると考えられた。ヒト培養腹膜中皮細胞に与えるTGF-βの影響では、0.1ng/ml以上の濃度のTGF-βにより中皮細胞の増殖は抑制され、その形態にも変化を与えることが証明された,さらに、TGF-βの中皮細胞層の透過性に与える影響を検討したところ、標識アルブミンの透過性を著明に亢進させることが示された。また中皮細胞と胃癌細胞株を共存させた癌細胞浸潤実験では、TGF-βをあらかじめ癌細胞に作用させることにより中皮細胞下面への癌細胞の浸潤が増大することも明らかとなった。以上の結果は癌性腹水中に存在するTGF-βが中皮細胞癌の形態及び機能を破綻せしめ、その透過性を亢進させ、胸腹水貯留において重要な役割を果たし、一方で癌細胞自身の中皮細胞への浸潤を亢進させることを示唆するものである。さらに、生体内においてTGF-βの活性化に関与すると考えられるurokinase-type-plasminogen-activator(u-PA)も癌性腹水中で高濃度に存在することを明らかにした。以上、本年度はTGF-βと中皮細胞に焦点をあて、TGF-βの癌性胸腹水発症への関与を明らかにした。現在、アラキドン酸代謝産物12-HETE.15-HPETEを次なるTargetにし、この分子の胸腹水貯留への関与について解析を進め、一方で胃癌細胞を用いた動物腹水モデルの作成を行っている。
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