研究概要 |
平成7年度は次の2項目について検討し、下記の通りの知見を得た。 1)癌細胞株、臨床癌組織から得られた初代培養細胞におけるc-myc mRNAとprothymosin mRNA発現量の解析:昨年度報告した通り、我々はc-myc mRNAとprothymosin (PT)mRNAの半定量的測定法を確立した。この方法を用いて、まず9種のヒト胃癌細胞株におけるc-mycとPTのmRNA発現量を比較検討したところ、c-mycの発現が多い細胞株はPTの発現も多い傾向が認められた。次に、臨床胃癌切除60例を対象として、個々の胃癌症例における両遺伝子の発現量を求め対比したところ、胃癌各症例におけるc-myc mRNAとPTmRNA発現量との間には極めて有意な正の相関関係が認められた(r=0.73,P<0.0001)。この結果、c-mycに対するアンチセンス分子投与時のc-mycとPTの発現の変化を解析することにより、発癌におけるc-mycとPTの役割及び両遺伝子の相互関係を明らかにしうることが示唆された。 2)c-myc増幅やc-myc mRNA発現量とアンチセンス分子による増加抑制との対比:「どのようなタイプの癌細胞にc-mycに対するアンチセンス分子(AS/c-myc)の抗腫瘍効果が期待できるか?」という点を検討するために、食道由来細胞株(KSE-1,KSE-2)や臨床胃癌細胞由来の初代培養細胞を対象としてc-mycの増幅及びc-myc mRNA発現の程度と、AS/c-mycを添加した際の細胞増殖抑制の程度を対比した。その結果、AS/c-mycによる細胞増殖抑制の程度はKSE-1に比べKSE-2で大きかったが、両者のc-myc増幅の程度には差を認めなかった。一方、臨床胃癌細胞のc-myc mRNA発現の程度の大きい症例ではAS/c-mycによる細胞増殖抑制の程度が大きい事が示唆された。
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