膵胆管合流異常症における発癌メカニズムを解明するために、はじめに本症小児例における胆汁中の単汁酸を高速液体クロマトグラフィーを用いて検索した。この結果、本症では胆汁中総胆汁酸濃度の低値と、胆汁欝滞に起因すると思われる遊離型胆汁酸や二次胆汁酸の発現を認めた。これらは、それぞれ胆嚢の胆汁酸濃縮能の障害と小児期より胆嚢粘膜の組織障害が起こりうる可能性を示唆した。しかし、本症における胆汁中胆汁酸の内因性発癌プロモーターとしての意義については、今後も検討を要すると考えられた。 次に、Chick-embryo fibroblastを用いたin vitroの実験系で、胆汁酸(ケノデオキシコール酸)と膵酵素(トリプシン)が細胞機能に与える影響について検討した。その結果、胆汁酸は培養細胞のプロスタグランディンE_2合成を促進させて、トリプシンは培養細胞の^3H-thymidineの取り込みを促進させる効果が認められた。この結果により、胆汁酸とトリプシンにはそれぞれ作用経路が異なるもののいずれも細胞増殖を亢進させる働きがあるものと考えられた。また、臨床病理学的検討では、本症における胆道上皮には高頻度で過形成性変化が観察される。この組織学的変化は、本症の病態を反映して胆道内に逆流した膵液や欝滞した胆汁成分の作用により生じるものと思われるが、上述したin vitroの実験結果は胆道上皮に対して作用しているmitogenicな因子の一部を示しているものと推測される。
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