研究概要 |
ヒト乳癌培養細胞MCF-7に血管新生促進因子の一つFGF-4及びgenetic tagとして大腸菌lacZ遺伝子を導入したMKL-4細胞は,ヌードマウスに移植するとホルモン非依存性に急速増大する腫瘍を形成し,lacZ活性を利用した染色法によりリンパ節及び遠隔臓器転移を判定量的に検討することができる。この転移モデルを用い当該年度に以下の研究成果が得られた。 1.乳癌の術後補助化学療法として汎用されている代謝拮抗物質ftorafurとuracilとの配合剤であるUFTの効果も検討した。その結果,UFT 10または20mg/kgの連日,経口投与により,用量依存性に増殖速度,転移の頻度や広がりが抑えられた。また,腫瘍内の壊死巣の増大も認められた。しかし,その効果は血管新生抑制物質TNP-470に比べるとやや劣り,また20mg/kg投与群ではマウス体重の減少が認められた。一方,腫瘍増殖の抑制が認められたマウスでは,微小転移が全く認められなかったことは興味深い。本研究結果は,論文として発表された。 2.癌細胞浸潤抑制物質IIF-2の効果を検討した。その結果,IIF-2アルブミン結合体10または20mg/kgを連日,腹腔内皮投与すると,in vivoでの浸潤能の低下(IBAS画像解析装置を用た新しい解析法を考案)及び増殖抑制作用をともなわない転移抑制効果が示された。興味深いことに,腫瘍の血管新生能には全く影響が認められなかった。本研究結果は,論文として掲載予定となっている。 3.乳癌手術後の補助化学療法のモデルとして,このMKL-4転移モデルが使えるかどうか検討するため,細胞接種後一定期間をおいて腫瘍を切除し,転移巣がその後どのように変化していくかを検討中である。pilot studyにおいて,腫瘍切除がその後の微小転移の進展を促進することが判明した。今後さらに,この術後転移モデルの開発に力を入れていく予定である。 さらに,ヒト乳癌細胞の細胞生物学の研究に役立てようと,再発乳癌患者の癌性胸水から新しいヒト乳癌細胞株KPL-1, KPL-3Cを樹立した。本研究結果は,論文として掲載された。
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