変異型p53、hsp72各々の発現と胃癌温熱療法症例の予後との関係を知るために、胃癌切除標本を用い、免疫組織学的に検討を加えたが、両者ともその発現は温熱療法施行症例の予後と相関は認められなかった。この結果および大腸癌株化癌細胞を用いた実験系で温熱療法によりdThdPaseが上昇することが明らかにされている事実を踏まえ、胃癌のおける温熱耐性の解明という主旨に従い、胃癌における温熱耐性とThymidine phosphorylase(以下dThdPaseと省略)発現の視点から研究を展開した。 まず、抗ヒトdThdPaseモノクローナル抗体を用いて、当科において温熱療法を併用した治療を行い予後の明かな進行再発胃癌患者25例の新鮮凍結標本を用いて、免疫組織化学的なdThdPaseの発現を検討した。dThdPaseの発現は48%に認めれ、3年生存例はdThdPase陰性では15%であるのに対して、陽性例では75%で統計学的に有意差を認めた。さらに、近年、dThdPaseは血管新生に関与する血小板由来血管内皮細胞増殖因子(PD-ECGF)との相同性があきらかにされており、抗ヒト第VIII因子抗体を用いた免疫染色を同一の検体により行ったところ、dThdPaseと血管新生に正の相関を認めた。現在のところ温熱療法を施行していない胃癌症例のdThdPaseは検討していない。しかし、温熱療法を行っていない乳癌症例ではむしろdThdPase陽性例は予後が不良であり、上記の温熱療法を行った胃癌症例とdiscrepancyが生じる結果となっている。この理由として癌腫による差の他、各種サイトカインによりdThdPaseが誘導される可能性もあり、温熱療法により誘導されたサイトカインを介してdThdPaseの発現がコントロールされていることも考える得る。 今後、温熱耐性がdThdPase、さらにはサイトカインネットワークにより調整される可能性を示唆できた点で大変興味深いと考えられる。
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