研究概要 |
本研究最終年度である平成8年度は,昨年度までの研究で明かとなった再灌流障害についてこれまでの実験モデルを用いてfree radical scavengerであるmannitolを投与して検討した.実験では本剤投与によっても虚血障害は軽減されず,臨床的に問題となる病態においては再灌流障害より虚血性障害が優位であり,臨床応用への困難さが浮き彫りにされた.そこで本年度は腸間膜血管閉塞症の臨床例を調査し,その病態,治療上の問題点を解明した.対象は17例の急性腸間膜動脈閉塞症(SMAO)と7例の急性腸間膜静脈血栓症(SMVT)で,平均年齢はSMAO群69歳,SMVT群59歳で,SMAOでは高齢者に多く,高血圧や心血管疾患の既往を有する例が高率であった.症状は非特異的であったが,SMAOでは突発的に高度の腹痛を生じたのに対し,SMVTの発症は緩徐であった.SMAOでは小腸から大腸まで広範に侵されていたのに対し,SMVTでは平均110cmと小腸を分節的に侵していた.SMAOの死亡率は65%で,特に術後30日以内の手術死亡が高率であったが,血行再建術を施行した3例は全例生存した.SMVT死亡率は43%であった.死亡3例中,2例は遠隔期の血栓症再発が原因であった.実験的,臨床的に動静脈閉塞の間には多くの相違点が認められたが,治療成績向上のためには,SMAOでは積極的な血行再建と重点的な周術期管理,SMVTでは血栓症再発に対する対策が重要と考えられる.
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