研究概要 |
肝細胞癌切除例を対象に分子生物学的手法を用い、13q,16q,17p染色体欠失をはじめ、転移に関与する癌転移抑制遺伝子nm23Hl,接着分子関連遺伝子のcell adhesion regulator(CAR)やE-cadherin(EC)の発現を検索し、病理学的進展因子や核DNA ploidy pattern並びに切除後の再発病態や予後と比較検討して以下の結果を得た. 1.肝癌のStageの進行に伴い,各染色体の欠失頻度やnm23Hl,CAR,ECの発現低下の頻度は増加し,StageIII,IVでは高率に認められた. 2.16q染色体上に存在するCAR,ECの発現は16q染色体欠失例では非欠失例に比べ,高率に低下していた. 3.16qを含む2つ以上の染色体欠失例やnm23Hl,CAR,ECの発現低下例はvp,im陽性例やAneuploidのものが多く、残肝多発再発や肝外転移を来し易く、16q染色体の遺伝子異常は肝癌の進展に深く関与していることが示唆された. 4.多発結節症例における各結節や残肝再発再切除例の初発巣と再発巣の染色体欠失の検索により,欠失パターンの相違から同時性並びに異時性多中心性発生の診断が可能であった. 以上,分子生物学的解析は肝癌の詳細な悪性度評価や多中心性発生の診断に有用であることを明かとした.現在,染色体欠失にマイクロサテライトマーカーによるPCR-RFLP法,遺伝子発現にRT-PCR法を用いることにより少量の生検組織からの解析が可能となり,術前診断に応用を試みている.しかし,これらの遺伝子異常は癌の進展に伴う後期の変化であり,今後は癌発生早期の遺伝子異常を捕らえることが重要である.そこで早期肝癌における他の染色体欠失や欠失染色体上の新たな癌抑制遺伝子の同定をはじめ,遺伝性非ポリポ-シス大腸癌で発見された癌化やprogressionの原因となるDNA修復酵素異常にも注目し,肝癌との関連について研究を十微中である.
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