研究概要 |
腸の蠕動反射機構を明らかにする目的で実験を行った。ウレタンとクロラロースで麻酔したイヌの生体内空腸を用いた。外反射の影響を除去するため外来神経は切断された。長さ約10cmの空腸を切断分離し,その分離腸管の口側部と肛門側部の運動をそれぞれの腸内腔に入れたバルーンによって記録した。分離腸管の血流を口側部と肛門側部に分け,各部位に分布する動脈の分枝よりカニューレを介して,薬物を各部位に別々に投与した。粘膜を擦過する実験では口側あるいは肛門側部を縦切開してその粘膜面を露出して行った。 アセチルコリンを肛門側に投与すると,投与部位の収縮と同時に,口側部に上行性収縮が誘発された。この上行性収縮はセロトニン受容体のサブタイプである5-HT_3受容体遮断薬の肛門側処理で抑制されたが,5-HT_4遮断薬では影響を受けなかった。肛門側部の収縮をニフェジピンによって抑えておくと,上行性収縮は消失した。したがって,アセチルコリンによる上行性収縮は投与部位の収縮によって誘起され,5-HT_3受容体を介して起こると考えられる。一方,粘膜の擦過による上行性収縮は5-HT_3受容体を介して起こると考えられる。一方,粘膜の擦過による上行性収縮は5-HT_3受容体を介して起こる(Neya et al., 1993)。 上述の両上行性収縮反応は,NO合成阻害剤(L-NNA)の肛門側あるいは口側部の処理によって増強した。この増強効果はL-arginineによって阻害されたが,D-arginineによって阻害されなかった。粘膜の機械的刺激による下行性弛緩反応は肛門側部のL-NNA処理によって抑えられた。自発性収縮に対しては無効果であった。これらの結果から,NOは蠕動反射を誘発する刺激によって壁内ニューロンから放出され,下行性弛緩反応を誘発する反射経路の最終ニューロンであるNANC神経の伝達物質として働いていること,上行性収縮反応を誘発する反射経路のコリン性伝達を部分的に抑制して上行性収縮反応の大きさを調節していることが明らかとなった。
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