子豚のモデルにて60分、120分、180分の全肝血行遮断(total hepatic vascular exclusion)を行い、肝冷却灌流を行った灌流群を、冷却灌流を行わなかった温阻血群と比較し、肝冷却灌流の時間的な安全限界について検討した。灌流液としてはlactated Ringers solution(以下LR液)、Wisconsin solution(以下UW液)を用いた。 肝深部温度、直腸温度の検討からこの方法は体温に影響を与えず、体内で肝温度を下げることが可能な方法であることが示された。全身血行動態については120分までの阻血では動脈圧、心拍出量、平均肺動脈圧ともに安定していたが、180分阻血ではUW液を用いた冷却灌流群でのみ安定が得られた。温阻血群では再灌流後120分までに全例が死亡、LR群でも再灌流後に血圧が低下した。再灌流後の門脈血流、肝動脈血流、肝組織酸素飽和度は120分までの阻血においては差は認めないが180分阻血では冷却灌流群でのみ高値で、温阻血群では回復しなかった。エネルギー代謝の点から再灌流後120分の肝組織アデノシン三リン酸(ATP)を測定したが、60分阻血では温阻血、冷却灌流群の間に差はなかった。120分阻血では温阻血群のATPの回復は阻血前の55%までしか回復しなかったが、冷却灌流群では阻血前値の75%まで回復し優位の差を認めた。180分阻血では温阻血群において再灌流後の肝組織ATPは回復せず、全例再灌流後120分以内に死亡した。LR液群でも回復は阻血前値の約50%に止まったが、UW液群では約75%まで回復した(P<0.05)。病理組織学的には冷却灌流群で阻血中その構造が良く保たれているのに温阻血群では出血や肝細胞の破壊、細胞内の小器官の変性など障害が強かった。体内の物理的冷却法は肝阻血障害を軽減させる有効な手段であり、その限界は120分までであることが判明した。
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