我々は、膵癌に対する集学的治療の改善を目的として、ヒト膵癌培養細胞における細胞死の研究を進めている。 平成6年度は、膵癌の集学的治療うち、臨床的に効果が期待されている術中開腹照射を念頭におき、培養膵癌細胞に対する大線量X線照射による細胞死を中心に検討した。 本年度使用した培養株は、ヒト膵癌の3株とヒト胆嚢癌細胞株の1株である。ヒト膵癌細胞株MIA-paca2に対して50grayのX線を照射すると、およそ7日の経過である大半の細胞が死に至った。形態学的には、nuclear fragmentation(NF)が観察されたが、電気泳動による観察ではDNA ladder formation(Ladder)はみられなかった。50grayの照射15分後に蛋白合成阻害剤であるcycloheximideを投与すると細胞死が明らかに抑制された。さらに、これまでの報告から幾つかの細胞株においてapopotisisをおこすと報告されているetoposideを投与するとNFとcycloheximideによる細胞死抑制がみられたが、照射と同様にLadderは観察されなかった。一方、胆嚢癌細胞株では、50gray照射とetoposideの投与によってそれぞれNFとcycloheximideによる細胞死の抑制、Ladderが確認された。 以上のような結果から、膵癌細胞に対して大線量のX線照射とtopoisomerase II inhibitorであるetoposideを投与しておこる細胞死は、Ladderは観察されないもののapoptosisの1型であることが示唆された。しかし、この両者を単純に複合処置しただけで細胞死の加算効果は得られず、より有効な治療を行うためにはなんらかの工夫が必要であると考えられる。また、他の膵癌培養株についても検索を進めている。
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