[目的]食道静脈瘤を形成する一つの要点とされる胃壁循環亢進状態について、膵グルカゴンに着目し、当該ホルモンの果たす役割に関して定量的評価を試みた。 [対象および方法]I(対照)群(44週齢雄性ウイスターラット、n=24)、II(肝硬変)群(50%CC14、2mg/kg、2回/週、4〜44週齢の40週間、皮下注投与により作製、n=24)、III(門脈狭窄)群(4週齢にて門脈狭窄作製、n=24)を設定し、各群をさらに、1.生食投与(n=8)、2.抗グルカゴン抗体投与(n=8)、3.正常対照として血清のみ投与(n=8)の3亜群に分けた。 検討事項は、1.肝病理組織所見、2.門脈圧、3.レーザードップラー血流量計による胃壁組織血流量測定の3項目とした。 [結果]1.肝硬変ラットはすべて肉眼的および組織学的に肝硬変の像を呈した。2.I群の門脈圧は7.5±2.0mmHgであるのに対し、II群の門脈圧は12.3±2.4mmHg、III群の門脈圧は15.3±4.4mmHgでそれぞれ有意差が存在した。3.I群の胃壁組織血流量は42.3±3.3ml/min/100gであるのに対し、II群では87.0±6.9ml/min/100g、III群では75.8±7.4ml/min/100gで、それぞれ有意差が存在した(p<0.05)。抗グルカゴン抗体の投与では、胃壁組織血流量に関し、I群では変化はなかったが、II群では59.9±5.6ml/min/100gと有意に(p<0.05)低値を示した。またIII群でも50.9±5.7ml/min/100gと有意に(p<0.05)低値を示した。 [考察および結語]以上の結果から、食道静脈瘤を形成する一つに要因とされる胃壁循環亢進状態に関し、膵グルカゴンはその約35%について直接関与しているものと考えられた。
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