研究概要 |
1.ヒト膵癌細胞株(SW 1990,C apan-2,PANC-1)を用いた分子生物学的特性の解析で、糖鎖抗原(S ialy1-Le^a,S ialy1-Le^x,SP an-1等)の強い発現を示したSW 1990細胞が最も強いin vitro浸潤能を示し、細胞表面上糖鎖抗原発現と浸潤能との相関が認められた。またSW 1990細胞は血管内皮細胞上接着分子ELAM-1への強い接着性およびin vivoでの高肝転移能を示し、糖鎖発現との相関が示唆された。 2.SW 1990細胞のELAM-1接着は、糖鎖合成阻害剤(B enzy1-G aIN Ac)およびneuram in idaseによる細胞処理にて抑制され、また抗S ialy1-Le^a,S ialy1-Le^x抗体添加にてもDose dependentに抑制を受けた。さらにB enzy1-G aIN Ac細胞処理ではヌードマウス脾内注射による肝転移形成抑制効果が認められ、膵癌細胞表面上糖鎖抗原特にS ialy1-Le^a,S ialy1-Le^xの発現がELAM-1を介した血行性肝転移に大きく関与していることが示唆された。 3.浸潤、転移過程においてその関与が注目されているプロテアーゼ(type IV collagenase)産生能および種々の細胞外マトリックスへの接着能も検討を行ったが、SDS Zymogramによるtype IV collagenase産生能やマトリゲル、ラミニン、フィブロネクチンおよびtype I,IVコラーゲンへの接着能と浸潤、転移能との関連は明らかでなかった。 4.Transw ell double cham berを用いた細胞遊走能を解析した結果、浸潤、転移能の最も強いSW 1990細胞が高遊走能を示すことが判明し、SW 1990細胞より培養上清中への遊走刺激因子の産生が考えられた。この因子はautocrine、paracrine両方の作用を示し、濃度依存性でごく微量より効果があり、またある細胞のみに特異的に作用することからサイトカインの一種であると推測される。加熱処理やゲル濾過から、その構造にペプタイドを有する分子量20-60Kdの範囲の分子であることが明らかとなり、既知のものと異なり新しい因子である可能性が示唆された。
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