研究概要 |
輸血医学は,近年大きな発展をとげ,輸血感染症(B型肝炎,C型肝炎,HIV感染),輸血後GVH病等の輸血副作用・合併症に対する方策を確立してきた。しかし尚,輸血血液中の白血球とくにリンパ球による免疫血液学的な複雑な反応は未解決なままである。その内の一つは,輸血による癌患者への免疫抑制の問題であり,本研究では同種血輸血による免疫抑制の機序を解明することを目的とした。まず平成6年度は,当院外科で手術を施行された消化器癌(胃癌,結腸,直腸癌)患者を対象に,輸血をした群(自己血輸血群,同種血輸血群)と無輸血群で生存率,再発率に差があるかどうかを検討した。自己血輸血群33例,同種血輸血群19例,無輸血群69例を解析した。3年生存率で自己血輸血群83.3%,同種血輸血群76.6%とやや自己血輸血群で高い傾向がみられたが,Log-rank testで有意差は見られなかった。しかし,同種血輸血により免疫能が抑制される可能性があるため,本年度は消化器癌患者10例(食道癌,胃癌,結腸癌)に400〜800mlの貯血をし,自己血輸血を実施し,同種血輸血群の対照とした.これらの症例の周術期に凍結保存した検体を用いて,手術前後における免疫能の変化,とくにリンパ球サブセット,RT-PCR法による各種サイトカインの産生量,ナチュラルキラー活性等の変化を今後比較,検討する予定である。
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