研究概要 |
1,免疫不全マウス(nude mouse,SCID mouse)において,ある種のヒト大腸癌細胞の組織片を盲腸壁に移植すると高率に肝転移を来すことが明らかとなった. 2,上記のモデルにおいてヒト大腸癌株は転移株と非転移株とに分類された.転移株は当該マウスの脾内注入,肝内注入,肝表面への縫着のいずれの方法でも肝内で増殖しおよび転移を形成した.一方,非転移株はいずれの方法でも肝において増殖し得なかった. 3,ヒト大腸癌臨床材料において免疫染色によるE-カドヘリンの発現の変化を検討した.その結果,浸潤性とは相関したが転移との明らかな相関性は認められなかった. 4,in vitroにおけるヒト肝細胞と癌細胞の相互作用を検討した結果,ある種の癌細胞はTGF-β1の活性化することがco-cultureによって認められた.さらに,活性化されたTGF-β1は肝細胞の増殖を抑制した.抗TGF-β1抗体は肝細胞の増殖抑制効果を阻害し,さらにco-cultureにおいて活性型のTGF-βが増えていることが明かとなった.一方,肝細胞の培養上清中にはある種の癌細胞の増殖を促す因子が含まれていることが明らかとなった. 上記より,われわれが開発した同所再建転移モデルでは,転移を規定する因子として最も重要なのは肝において癌細胞が増殖し得るか否かであった.これは取りも直さず癌細胞と肝の相互作用に起因するものと考えられる.しかし,相互作用を検討するために用いる肝細胞はsv40でトランスフォームしておりその影響も否めない.さらに,癌に対する増殖因子は多数存在するため上記の培養上清中の増殖因子が果たして未知のものであるかどうか同定しなければならない.何れにせよTGF-β1が肝細胞と癌細胞の相互作用で活性化されるといった事実は新しい知見である.しかし,今後はそのことが転移と如何に関わっているかについて検討しなければならない.
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