研究概要 |
進行膵胆道癌に対する拡大手術として肝切除合併膵頭十二指腸切除術が積極的に施行されているが,なかには肝動脈を結紮切除せざるを得ない症例もある.肝動脈の遮断により,肝血流量の減少,組織低酸素化が起こり肝不全を惹起することになる.肝動脈-門脈シャント術が肝動脈血行遮断時の肝不全対策として有用か否かを雑種成犬を用いて検討した.【対象と方法】肝動脈を結紮後切離する肝動脈遮断群(以下,遮断群,n=8)と,切離した肝動脈を門脈に直接吻合する門脈部分動脈化群(以下,動脈化群,n=12)を作成し,術前,術直後,30分後,60分後,門脈圧,門脈酸素分圧,門脈血流,肝組織血流,肝エネルギー代謝(AKBR)を測定し両群を比較検討した.【成績】(1)門脈圧(mmHg):動脈化群では,術前6.6,術後8.3,8.7,8.3であった.遮断群では術前5.9,術後6.8,5.4,6.3であった.両群間に有為差を認めなかった.(2)門脈酸素分圧(mmHg):動脈化群では,術前47.1,術後51.9,55.7,51.4であった.遮断群では術前51.1,術後48.2,46.7,49.2であった.動脈化群では上昇傾向を示したが両群間に有為差を認めなかった.しかしながら,術前値を100%とした場合の変化率(%)では,動脈化群が遮断群と比較して有意(p<0.05)に高値を示した.(3)門脈血流(ml/min):動脈化群では,術前271.4,術後410.0,400.0,325.0であった.遮断群では,術前410.0,術後324.0,243.3,237.8であった.動脈化群では上昇傾向を示し,遮断群では下降傾向を示したが両群間に有為差を認めなかった.しかしながら,術前値を100%とした場合の変化率(%)では,動脈化群が遮断群と比較して有意(p<0.05)に高値を示した.(4)AKBR:動脈化群では,術前1.0,術後1.1,0.9,0.8であった.遮断群では術前1.2,術後1.3,1.2,1.6であった.両群間に有為差を認めなかった.(5)肝組織血流(ml/min/100mg):動脈化群では,術前18.0,術後15.6,14.1,9.3であった.遮断群では術前15.6,術後15.8,15.8,12.2であった.両群間に有為差を認めなかった.【考案】動脈化群は,門脈酸素分圧と門脈血流における術前値を100%とした場合の変化率が,遮断群と比較して有意(p<0.05)に高値であった.このことから,肝動脈-門脈シャント術は,肝動脈遮断後の肝血流量と酸素供給量を維持でき,肝不全予防に有用であると考えられた.
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