研究概要 |
1.目的:従来の新生児心筋保護法の研究では,幼若実験動物の心臓が用いられてきたため,正常心の研究範囲を超えるものではなく,胎内にある時から異常を有し,圧負荷や容量負荷を受けててきた先天性心疾患の心筋を反映しているとは言い難い.従って,本研究では妊娠中の胎仔に対して子宮内手術を行い,大動脈絞扼により胎仔心臓に圧負荷をかけ左室肥大モデルを作成することにより,従来の正常の新生仔心を用いた心筋保護法の研究では解明できなかった問題点を明らかにし,新生児心筋に対する適正な心筋保護法の開発を目的とした. 2:研究経過 妊娠羊が手に入るのは,12月から3月までの限られているため,この時期に合わせて実験を行った.また,心筋保護法施行後の心機能評価に用いるLangendorff心灌流装置と実験室の準備を行い,ラットを用いて新生仔心臓の装着が可能か心拍動の再開が可能かの予備実験を並行して行った. 妊娠100から120日の妊娠羊5頭を用いて実験を行った.胎仔の体重は約1500gと小さく狭い子宮内操作のために新生児用の特殊な機械と拡大ル-ペを手術に必要とした。初回の1頭は上行大動脈にテ-ピングで絞扼するために大動脈と肺動脈の間を剥離する際に術中出血し失った.きわめて限られた視野であり,また,胎仔大血管が脆弱であり,慎重な細かな手術操作の必要性を痛感させられた.その後の4頭は上行大動脈絞扼術の終了後子宮内に還納できたが,術後1〜7日で流産または子宮内死亡,死産であった.この間,子宮に対する機械的刺激を少なくし流産を防ぐため,子宮切開創は可及的に小さくする,胎仔の右上腕〜肩甲骨のみを子宮外に引き出し,他の身体の部分は子宮内に納めたままとし,この肩甲骨下で右開胸を行なうなどの実験手技の改良を加えてきたが,生存新生仔モデルを得ることできなかった.子宮内手術手技に習熟する必要性が痛感されるとともに,胎仔に対する侵襲が過大であった可能性もあると考えられた. しかし,大動物の子宮内手術に対する幾多の知見を得ることができ,今後の実験に進展を期待できるものと考えられた.
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