研究概要 |
塩基性線維芽細胞増殖因子(basic fibroblast growth factor:bFGF)は、神経系の腫瘍においては血管新生のみならず、腫瘍細胞自身の増殖にも大きな役割を果たしていると考えられている。さらにその受容体遺伝子であるfms-like gene(flg)は正常組織に比較して神経膠腫組織で高く発現していると示唆されており、このflgを標的とした悪性脳腫瘍の治療法の可能性を検討している。 平成7年度においては、神経膠腫細胞の増殖に占めるflgの役割を詳細に検討した。ヒト膠芽腫細胞株A-172,U-251,TK-1、髄芽腫細胞株ONS-76、線維芽細胞株NB-1を用いてまず、Southern blotを行い、flgの増幅を検討した。さらにNorthern blotにてその発現の程度を検討した。次に、各培養細胞の増殖能をPCNA陽性率とBrdU labeling Indexで評価し、それらの値とflgの発現亢進の相関性を検討した。また、各細胞株における蛋白レベルでの検討として免疫組織化学的手法による解析も加えた。その結果、Southern blotでは明らかな増幅は認められず、ristriction patternも同様であった。しかしNorthern blotではU-251,A-172,TK-1,NB-1,ONS-76の順に発現が亢進していた。免疫組織化学ではほぼすべての細胞の細胞質にflgが陽性であったが、Northern blotの結果と同様に、ONS-76では染色性は弱かった。各細胞のMIB-1陽性率とflgの発現は正の相関を示した。最後にantisense oliginucleotideの腫瘍細胞増殖抑制効果を検討したが、20μMの濃度で各腫瘍細胞の増殖は有意に阻止されたが、線維芽細胞では明らかな変化は認められなかった。 以上より、線維芽細胞増殖因子受容体をcodeする遺伝子flgは神経膠腫細胞の増殖に密接に関与しており、in vitroではflgをanti-senseで不活化することでも神経膠腫細胞の増殖をほぼ完全に阻止できることが示唆された。
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