研究概要 |
塩基性線維芽細胞増殖因子(basic fibroblast growth factor : bFGF)は、神経膠腫の増殖に重要な役割を果たしているが、我々はその受容体遺伝子であるfms-like gene (flg)の神経膠腫の増殖における生物学的役割を明らかにし、これを分子標的とした脳腫瘍の新たな治療法の可能性を検討してきた。 平成6年度においては、手術時摘出した65例(神経膠腫:27例,髄膜腫:19例,下垂体腺腫:8例,神経鞘腫:7例,その他:2例)の脳腫瘍組織を用いてRT-PCRによるflgの発現を検討した。その結果、flg mRNAの各種脳腫瘍組織における発現は正常組織に比較して有意に高く、特に、再発または悪性化例では発現が亢進し、組織学的にはこのflg mRNAの発現亢進は腫瘍細胞の密度(cellularity)と相関していた。平成7年度には、培養膠芽腫細胞におけるflgの発現をまずSouthern blot、Northern blotにて検討した。その結果、Southern blotでは明らかな増幅は認められなかったが、Northern blotでは膠芽腫細胞にflgの発現亢進が認められた。さらに、免疫組織化学的解析でもNorthern blotの結果と同様に、膠芽腫細胞株でflg産物の陽性率は高いことが示された。一方、各細胞のMIB-1陽性率とflgの発現には正の相関が認められ、flgのanti-sense oliginuncleotide (25μM)は各腫瘍細胞の増殖を有意に阻止した。以上より、繊維芽細胞増殖因子受容体をcodeする遺伝子flgは神経膠腫細胞で発現が明らかに亢進しており、腫瘍細胞の増殖に密接に関与している。そして、その亢進には上流に存在する何らかの転写因子の関係があると推察される。以上のことから、flgは脳腫瘍に対するミサイル療法の標的分子として可能性が高いことが示唆された。
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