家兎モデルを用いて脳虚血後再潅流障害における抗L-セレクチン中和モノクローナル抗体のE-セレクチン発現に対する治療効果を検索した。経眼窩的にウサギ内頚、中大脳、前大脳動脈をクリップして一過性閉塞(2.5時間)した後、3、6時間後にクリップを外して脳血流再潅流を行なった。このモデルに対して再潅流直後、2mgの抗Lセレクチン中和抗体(治療群)、または生理食塩水を静脈投与した(未治療群)。これら2群につき、免疫染色法によりEセレクチン(Endothelial Leukocyte Adhesion Molecule : ELAM-1)の発現部位とその程度を組織学的に検索した。そしてウサギELAM-1のオリゴヌクレオチド・プライマーをもとにRT-PCRでクローニングして得た一本鎖DNAをプローブとしてnorthern blottingを行ない、ELAM-1mRNAの発現状態を検索した。その結果、1)免疫組織学的には、ELAM-1は再潅流3時間後に梗塞巣を中心に最も強く発現し、6時間後には減弱した。ELAM-1の染色は梗塞巣を中心に周囲組織内の細動静脈および星状細胞ならびに神経細胞胞体に認められた。2)抗Lセレクチン中和抗体の投与によりELAM-1に対する染色範囲の縮小と染色性の低下を認めた。3)虚血脳においてELAM-1mRNAの発現に再潅流3時間後と6時間後とで差異はなく、抗Lセレクチン中和抗体を投与したものでも同様であった。以上より、脳虚血後再潅流障害早期に起こる血管内皮側の反応としてのEセレクチンのmRNAのupregulationに白血球側のLセレクチンは関係せず、炎症性サイトカインの刺激により誘導産生されたEセレクチンは内皮細胞と星状細胞、神経細胞内にすでに貯蔵されていてLセレクチンを介した刺激により細胞外へ放出されると考えられた。
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