研究概要 |
脳神経細胞死の発生機序におけるNOの役割を解明するために,ラット一過性前脳虚血後の海馬CA1 pyramidal cellにおけるNOSの発現の変化を研究した。虚血後24時間には、NOS活性を反映するNADPH diaphorase活性は増強したが、neuronal NOS mRNAの発現は著明に減少していた。遅発性神経細胞死が起こる3日後には、NADPH diaphorase activityは低下し、neuronal NOS mRNAの発現は完全に消失していた。これらの結果から、一過性脳虚血後には、すでに存在しているNOS活性が過剰に増強して神経細胞に有害な作用を及ぼすのを防ぐために、NOSの転写がdown-regulationされ、NOS mRNAの発現量が低下すると考えられる。ところで、neuronal NOSとは対照的に、神経成長因子の一つであるbFGFは脳虚血後CA1 pyramidal cellにおいて一過性に転写レベルの発現が増強することを我々は以前に報告している。bFGFとNOSの発現の変化は、神経細胞が自らを保護しようとする合目的な反応と解釈される。更に興味深いことには、NOの神経毒性は、bFGFによって阻止されることである。そこで、我々は、虚血耐性現象における、CA1pyramidal cellにおけるbFGFの発現を調べたところ、虚血耐性獲得脳、即ち2分間の一過性前脳虚血負荷後ではbFGF mRNA発現の増強を認めたがbFGF蛋白の発現は認めなかった。しかし、2分間の虚血耐性導入後に2日間の間隔をあけて10分間の虚血を負荷するとbFGF mRNA蛋白ともに増強する。すなわちbFGFは虚血後の神経保護に非常に重要な役割をしていること、かつその作用機序がNOの神経毒性を阻止することによることが示唆された。
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