研究概要 |
一酸化窒素(NO)は血管内皮由来の血管拡張物質として知られ,近年その血流調節作用が注目を集めている。脳内血管においても血管内皮から常時分泌され血管の張力の調節に強く関与していることが明らかになってきた。こういった研究は主に脳の大血管においてなされてきたが脳血流調節の主要部位のひとつである脳微小循環においての研究は少なくNOの役割について統一した見解が得られていない。そこで我々はNOの脳微小循環調節作用について検討した。方法は我々が従来から使用しているものでラット脳より細動脈を摘出しこれを倒立顕微鏡上のチャンバーでカニュレーションし種々の試薬を投与してその血管径の変化をテレビモニター上で観察記録した。はじめにNOの脳細動脈への基礎張力調節作用についてNOの阻害剤(N^G-monomethyl-L-arginine(LNMMA))と基質(L-arginine)を使用することにより明らかにした。LNMMAの投与により、細動脈は濃度依存性に収縮し中大脳動脈領域では最大14%、脳底動脈領域では23%の収縮を示した。一方、L-arginine投与では細動脈は拡張を示し、中大脳動脈領域では最大11%、脳底動脈領域では24%であった。以上の結果は脳底動脈領域の細動脈は中大脳動脈領域のものに比べNOによる調節をより強く受けている可能性を示した。次に病的状態のモデルとして、クモ膜下出血による脳血管攣縮の原因物質のひとつであるoxyhemoglobin(OxyHb)の影響を検討した。OxyHbはNOの抑制物質とも考えられている。OxyHb自体は細動脈に軽度の収縮(6%弱)をもたらすのみであった。環境ホルモンのひとつであるバゾプレッシンにされている。細動脈をOxyHbにて前処置すると、バゾプレッシンの低能度による拡張作用は消失し、高濃度の収縮作用が著明に増強した。以上からNOは脳の微小循環系に対し、直接的、間接的に、また生理的状態のみならず、病的状態においても重大な影響を及ぼしていると考えられた。最後に高精度のNO電極を用いることにより、実際に脳の細動脈から放出されてるNOの量を検出する試みを行なったが、脳の細動脈より放出されるNOは微量で機械的ノイズによりかき消されてしまい、現段階ではNOの検出は不可能であった。
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