今年度は、クモ膜下出血後脳血管攣縮における細胞膜機能障害とその治療法の可能性について検討した。猿のクモ膜下出血モデルを作製し、血管撮影によって脳血管攣縮を確認した後、高速液体クロマトグラフィーを用いて、細胞膜リン脂質過酸化物を測定した。細胞膜リン脂質は、phosphatidylcholine hydroperoxide(PCOOH)とphosphatidylethanolamine hydroperoxide(PEOOH)を脳血管、クモ膜下血腫、脳組織において測定した。その結果、PEOOHはいづれの験体においても不変であったが、PCOOHは血管攣縮の見られた血管壁に有意に高く検出され、攣縮の程度と関連していた。脂質の酸化を抑制するtirilazadは、脳血管攣縮と血管壁におけるPCOOHの生成の両者を抑制した。このことより、クモ膜下出血においては、出血近傍の脳血管壁に脂質過酸化反応が発生することにより、血管攣縮が引き起こされることが明らかとなった。さらに、細胞膜に過分極とcGMPの上昇の両者を惹起するnitroglycerinは、猿クモ膜下出血モデルにおいて、脳血管攣縮を抑制し、脳血流量を増加させたが、血管壁cGMPを上昇させなかった。したがって、nitroglycerineは脳血管平滑筋に過分極を引き起こすことにより、血管攣縮を改善することが示唆された。現在、パッチクランプ法により、ラット脳血管平滑筋細胞においてnitroglycerineの各種イオン流におよぼす影響を検討中である。
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