研究概要 |
Nitroglycerinは、nitricoxide(NO)を介して平滑筋細胞膜を過分極させることにより弛援反応を引き起こすことが知られている。猿クモ膜下出血モデルにおいてnitroglycerinの全身投与による脳血菅攣縮に対する治療効果を検討した。12頭の日本猿を用いてクモ膜下出血モデルを作製した。出血後7日目に脳血管撮影を施行すると、全例に脳血菅攣縮を認めた。大脳皮質脳血流量(rCBF)は、血腫側で有意に低下した。また、cGMP量は血腫側中大脳動脈および両側頭頂葉で有意に低下した。Nitroglycerinを静脈内投与すると脳血菅攣縮は有意に改善し、rCBFも上昇したが、脳血菅におけるcGMP量は上昇しなかった。したがって、nitroglycerinの脳血菅攣縮改善効果はNOによるcGMPの上昇によるものではなく細胞膜過分極によるものであることが示唆された。細胞膜過分極は、クモ膜下出血においても影響されず、脳血菅攣縮治療の有用な手段であるものと考えられた。Protein CおよびProtein Sは、血菅内皮細胞膜上に存在するthrombomodulinによって活性化され抗凝固作用を発揮する。34例のクモ膜下出血患者において、末梢静脈血中のProteinC, ProteinSおよびAntithrombinIIIを経時的に測定した。その結果、これらの3因子は同様な変化をとり、急激な低下は症候性脳血菅攣縮を引き起こし、持続的な低下は脳虚血による神経症状の悪化を招くことが判明した。3因子の減少の原因は、クモ膜下出血により炎症反応が引き起こされることによってcoagulation cascadeが活性化されるためと推測された。これらの実験結果より、クモ膜下出血おいては血管内皮細胞および平滑筋細胞ともに細胞膜機能障害が神経症状発生に重要な役割を果たしていることが推測された。
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