研究概要 |
ラット中大脳動脈閉塞モデルでは、患側脳では軸索障害による視床萎縮およびマイネルト核の神経細胞が減少し、術後4週目までモリス水迷路試験にて、空間認知能の障害が持続することが確認された。 そこでニューロンの突起伸展・生存および機能維持に関与するといわれる塩基好性線維芽細胞成長因子(basic fibroblast growth factor=bFGF)を、埋め込み式の持続注入ポンプを用いて脳室内に注入(虚血直前より虚血後7日目まで240ng/day)することにより、モリス水迷路試験による空間認知能障害および組織学的変化がどのように変化するか検討した。その結果、対照としたvehicle投与群に比して、 (1)2週目のモリス水迷路試験にるプラットホームへの到達時間は、bFGF投与群(n=6)では1日目:90±1,2日目;73±15,3日目;39±9,4日目;33±11と対照群(n=6)の90±1,82±7,52±11,56±13に比して、短かかった。(2)術後8週後の脳の組織学的所見では、梗塞範囲(患側半球面積/非患側面積)は、bFGF投与群82.6±2.5%、対照群84.0±3.6%と両群に差はなかったが、視床面積比(患側視床面積/非患側視床面積)およびマイネルト核ChAT(choline acetyitransferase)陽性細胞数比(患側細胞数/非患側細胞数)は、bFGF投与群では、87.4±27%および85.2±2.3%であるのに対し、対照群では77.1±5.5%および71.9±5.6%であり、bGFG投与群にて、視床およびマイネルト核における組織学的変化は軽減された。 したがって、虚血脳に対するbFGFの脳保護作用により、軸索損傷による視床およびマイネルト核の損傷が軽減され、空間認知能障害の改善が得られることが示された。 今後は、bFGFの投与機関の延長を図り、その効果を検討するとともに、他の神経栄養・保護作用を有する物質を、術後長期間脳室内投与し、その効果を、行動実験および組織学的手法を用いて検討していく計画である。
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