研究概要 |
インテグリンfamilyは細胞外基質のcollagen、fibronectin、laminin等に対する受容体で、細胞膜を介してテーリン・ビンキュリンさらに細胞骨格であるアクチン・ミオシンに連絡している。神経膠細胞では、アクチンは中間径フィラメントであるGFAPと複合体を形成していることが知られている。すなはち、細胞外基質からインテグリンを介して細胞内へ伝達される細胞接着に関する情報は、GFAPへと伝達されることにより細胞の形態変化や運動能を制御しているものと考えられる。 正常神経組織では、a2,a3,a6,b1,b4が発現しており、a4,a5,aV,aL,aM,aX,b2,b3は発現していない。神経膠腫ではa3,b1の過剰発現とa5,aV,b3の異常発現がこれまでに報告されている。我々のこれまでの研究で、神経膠腫に特異的に欠失している未知のインテグリン遺伝子は同定することができていないが、定量的RT-PCR法によりa5、a6インテグリンが一部の神経膠腫細胞で特異的に発現が低下していることを認めた。とくにGFAPの発現が減少あるいは消失している細胞では、顕著にa5、a6インテグリンの発現が減少していた。これらの細胞では、細胞外基質の分解酵素であるtype IV collagenaseやstromelysinの発現が亢進しており、その阻害物質であるTimp-1、Timp2の発現は低下していた。a5、a6インテグリンの発現低下が、遺伝子異常によるものか、細胞外基質の分解に伴う二次的なものかは今後の検討の必要があるが、GFAPの発現の低下と良く相関していることは、極めて興味深い知見である。 神経膠腫の病理組織学的検索では、血管周囲には多くのGFAP陽性細胞が突起を延ばしていることが観察される。これらの細胞は通常はMIB-1陰性の非増殖期の細胞である。MIB-1陽性の増殖期の細胞は、血管周囲にとどまらないことが多い。すなはち、何らかの原因によりインテグリンの発現低下が起こると、腫瘍細胞は細胞外基質から離れて、遊走しながら浸潤・増殖して行くのではないかという仮説が考えられる。今回の我々の研究により、神経膠腫ではa5、a6インテグリンの発現低下とcollagenaseの産生亢進、GFAPの発現の低下が確認され、この仮説を説明する貴重な一知見であると考えられた。
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