虚血性神経細胞損傷には酸化的損傷が深く関係している。遷移金属は水酸化鉄のような細胞傷害用のあるフリーラジカルを発生する。従って、虚血性神経細胞損傷には遷移金属、とりわけ鉄が大きな役割を演じている可能性が極めて高い。一方、その鉄は鉄運搬蛋白であるトランスフェリンにより運ばれ、トランスフェリン受容体を介して細胞内に取込まれる。この際クラスリンが重要な役割を演じる。細胞内の余った鉄はフェリチンの形で貯蔵される。またこの系で細胞内に取込まれた鉄は、虚血性神経細胞損傷で新たに注目されている神経伝達物質CO(一酸化炭素)と関連するヘムオキシゲナーゼの産生、活性化と密接な関係を有している。従って、虚血脳における脳内の鉄の分布、代謝を追究することは虚血性神経細胞損傷の仕組を少なからず明らかにできる可能性があるので、ラットの局所脳虚血ならびに全脳虚血モデル、砂ネズミの前脳虚血モデルを使用し、虚血性神経細胞死に鉄がいかなる役割を演じているかに注目し各種の実験を行なった。 ラット局所脳虚血(MCA閉塞)モデル、ラット心停止モデル、砂ネズミの両総頚動脈閉塞モデルによる脳虚血モデルでの鉄染色、免疫組織化学法によるクラスリン、トランスフェリン、トランスフェリン受容体、in site hybridization又はin situ RT-PCR hybridizationによるヘムオキシゲナーゼ1とヘムオキシゲナーゼ2の両mRNAなどの虚血脳における脳内の鉄の分布、代謝を検討したがコントロールと比較していずれも顕著な差が観察できなかった。 これらの結果より鉄沈着、鉄代謝は我々が観察した期間では、神経細胞死に直接関与していないことが考えられる。
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