海綿静脈洞(CS)の胎生期発達過程をヒト胎児剖検例の脳・頭蓋標本を用いて検索した。検索方法は、経静脈的に造影剤を注入した標本を超軟X線立体拡大撮影よってX線学的に検索する方法と、CS部の骨ブロックを取り出し連続切片を作成して解剖学的ならびに組織学的に検索する方法である。CSは頭蓋内外を連絡する主要な静脈環流路としてのみならず、内頸動脈、脳神経および周囲軟部組織を包含する静脈洞であるために、当該研究においてはX線学的な静脈環流形式の発達とともにCS内部組織と発達との関連を解剖学的に検索することにより、CSの複雑な形態の発達が明確になったものと思われる。本研究結果の概要は 1)CSは胎児期の始まり(3ヶ月)には、内頸動脈周囲の粗な静脈叢として認められるが、静脈環流路としては未発達である。 2)4〜5ヶ月で、CS部に叢状の静脈路が発達し、眼窩静脈とinferior petrosalsinusを連絡する静脈環流路として認められる。この時期に左右のCSを結ぶintercavernous sinusが出現し、脳軟膜静脈からの流入も認められる。また、CS内では静脈路と硬膜および脳神経との関係が明確になる。 3)6ヶ月以降は、CSの叢状の静脈が収束されて数本の大きな静脈となり、眼窩と頭蓋内を連結する成人型の静脈環流路が形成される。 研究結果の概略は上述の通りであるが、更に検索例数を加えて個体差の大きい静脈洞の発達過程の詳細を明らかにしたうえで、研究成果を発表する予定である。さらに、CSは眼窩の静脈系の主要な環流路となっていることから、将来は複雑な眼窩の静脈発達についても検討すべきことが示唆された。
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