本年度は、麻酔中の肺胞マクロファージの炎症性サイトカインであるインターロイキン(IL)-1、6、8、腫瘍壊死因子(TNF-α)、インターフェロン(IFN)-γの遺伝子発現の有無を検索した。 方法:手術時間6時間をこえる、全身状態良好な非開腹手術患者20人を対象とし、無作為に2群に分割した。静脈麻酔群はプロポフォールとフェンタニールで、吸入麻酔群ではイソフルレンとフェンタニールで麻酔を維持した。 肺胞マクロファージ採取のための肺胞気管洗滌を麻酔導入直後、2時間後、4時間後、6時間後、麻酔終了時に行った。 採取したマクロファージの生存率、凝集率、細胞分布を検討後、グアニディウム溶液で溶解させ、除タンパク後RNAを分離した。逆転写酵素を用いc-DNAを合成、さらにDNAポリメラーゼを用い増幅した。 結果:揮発性麻酔群では、IL-1、6、TNF-α、IFN-γの遺伝子発現は、麻酔開始2時間後にすでに認められ、4時間後にはIL-8の遺伝子発現も陽性であった。静脈麻酔群では、IL-1、TNF-αの遺伝子発現は麻酔開始2時間後にみられたが、IL-6、IFN-γのそれは麻酔4時間後、IL-8の遺伝子発現はみられなかった。 結論:以上のことから、吸入麻酔薬の方がより炎症を惹起することが、遺伝子レベルで確認された。このことから、吸入麻酔薬は肺保護の観点からは必ずしも良い選択とはいえないことが強く示唆された。これは麻酔薬の違いによって肺の正常構造の変化に違いがあるという最初の報告である。
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