当初予定した自発発射現象が観察される人工膜(DOPH膜)は、予備実験の段階で得られた膜電位の信号/雑音比が生体膜よりも劣っており、再現性に乏しくまた生体膜に認められるイオンチャネルが基本的に欠如しているので種々のイオンチャネルに関する実験の遂行に困難を生じた。このため研究内容を人工膜を使った実験から脂質平面膜に再構成されたイオンチャネルに変更した。この結果より正常な状態に近い膜モデルを用いてイオンチャネルへの麻酔薬の影響を解析できるようになった。 平成6年度はin vivtro実験として脂質平面膜に再構成されたイオンチャネルの開閉の動態を線形および非線形解析し、イオンチャネルが麻酔薬によりどのように変化するかを検討した。脂質平面膜はアゾレクチン(Sigma)を使用して作成した。イオンチャネルを含んだ膜小胞溶液はラット脳シナプトゾーム分画から得た。得られた膜伝位の変化を増幅し(Warner社、Bilayer Clamp、購入)、データレコーダに記録した(ソニー、現有)。現在までにイオンチャネルとしてCa依存性Kチャネルを対象にして吸入麻酔薬の影響を検討している。この結果臨床使用濃度を越えた比較的高濃度のハロゲン化吸入麻酔薬ではKイオンチャネルの開閉が抑制されることが明らかになった。このときのイオンチャネルの開閉状態の動態は、一部雑音成分の影響のため麻酔薬の濃度依存性にカオスやフラクタル成分が変化するかに関しては詳細に検討する所までには至っていない。イオンチャネルの動態におよぼす麻酔薬の影響は引き続き平成7年度も検討予定である。
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