前年と同様、イヌ冠動脈におけるプラジキニンおよびアセチルコリンによる内皮依存性過分極反応に対するハロセンの影響を確認した。 1.ブラジキニンおよびアセチルコリンともに内皮依存性過分極反応を惹起したが、ブラジキニンによる反応ががアセチルコリンに比し有意に大きかった。 2.Gap-junctionの抑制効果を有するハロセンは、濃度依存的に冠動脈平滑筋細胞の静止膜電位を脱分極させた。しかし、高濃度のハロセン存在下においてもブラジキニンによる内皮依存性過分極反応は認められた。 3.ハロセンと同様麻酔作用とgap-junctionの抑制効果を有するヘプタノール平滑筋細胞の静止膜電位を過分極させたが、ブラジキニンによる内皮依存性過分極反応は抑制しなかった。さらに、他の吸入麻酔薬インフルレンやセボフルレンも内皮依存性過分極反応を抑制しなかった。 以上のことから、冠動脈の拡張に重要な役割を果たす血管内皮依存性過分極反応は、血管内皮の過分極がgap-junctionを介し平滑筋細胞に伝達されたものではなく、血管内皮からある種の過分極因子(物質)EDHFが放出されたことを強く示唆した。 最近、内皮依存性弛緩反応が吸入麻酔薬によって抑制されるという報告がなされている。今回の実験結果をあわせて考えると、吸入麻酔薬による内皮依存性弛緩反応の抑制は、一酸化窒素(NO)による反応を抑制したものか、あるいは過分極反応から弛緩反応へのプロセスを抑制したものかを今後検討する必要がある。
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