1.手術侵害刺激が加わる以前に、局所麻酔薬またはオピオイドで侵害刺激を遮断しておくと、侵害刺激による中枢神経系のsensitizationが起こらずに術後の痛みが軽いという。基礎的実験と臨床的研究の両方でこの事実を明確にし、局所麻酔薬とオピオイドの効果を比較することを目的とした。 2.基礎実験:ペントバルビタール麻酔下に6〜8週齢の雄のラットの足底部皮下に5%ホルマリン150μlを注射し、2時間後にホルマリンを還流して固定した。脊髄を取り出し、腰部膨大部の凍結切片を50μmの厚さで作製した。Fos抗体を用いて免疫組織化学的アビチン・ビオチン・ペルオキダーゼ法で染色した。ポクリロナール抗体の至適濃度を決め、薬物を投与しない対照群のデータを得た。次年度以降、あらかじめatolanto-occipital membraneより尾側へ向けて挿入留置したくも膜下カテーテルより、オピオイドとしてフェンタニールを、局所麻酔薬としてブピバカインを投与して、それぞれの投与量の増加に対するFos蛋白発現の抑制を明確にし、両者を比較する。さらに、両薬物に相乗効果があるか検討する予定である。 3.臨床研究:腹式子宮摘出術を受ける90名を30名ずつ全身麻酔群、手術途中から硬膜外麻酔を併用した群、手術開始前から硬膜外麻酔を併用した群に分けた。手術終了直後に0.225%ブピバカインと0.0005%フェンタニールの混合液を5ml硬膜外腔へ投与し、以降2.1ml/hで連続注入した。術後4時間目と24時間目の視覚痛みスコアおよびプリンスヘンリー痛みスコアは、手術開始前から硬膜外麻酔を併用した群で有意に低かった。手術開始前から局所麻酔を施行しておくと術後の痛みは軽いが、手術開始後に利用しても有効でないことがわかった。局所麻酔薬の先取り鎮痛効果が明瞭になったので、次年度にはオピオイドのひとつであるフェンタニールの硬膜外投与と静脈内投与を追加して、局所麻酔薬の結果と比較する予定である。
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