研究概要 |
ショック時において腹腔臓器は標的臓器であるといわれている。すなわち、全身的な心拍出量の低下が生じた場合、腹腔臓器への血流は心臓や脳などの生命維持に不可欠な重要臓器血流を維持するために犠牲となり早期より低下するといわれている。しかしながら腹腔臓器の中には消化管と、これに部分的に並列回路でつながる肝臓という二つの異なった主要臓器が含まれている。しかしこの2臓器の酸素代謝を同時に測定し比較評価した報告はない。 そこで今回、動物実験モデルを用いて、ショック時における腹腔臓器における臓器別酸素代謝を評価した。腹部血管の虚血による低灌流モデルにおいて、個々の臓器別にCritical oxygen deliveryと、Critical oxygen extractionを算出した。この検討では、肝臓における酸素抽出は平常では低いものの、低灌流状態では著明に増大する。Critical oxygen extractionは90%を超え、極限まで酸素を抽出しうる熊力があることが示唆された。一方で、消化管におけるCritical oxygen extractionは56%と低く、低灌流状態においては容易に酸素需給バランスの障害を来しやすい臓器であることが判明した。これには消化管粘膜における対向流系の関与が示唆される。また肝臓の酸素代謝は消化管が犠牲になり維持されていると推察される。このように腹腔臓器の中でも消化管と肝臓の酸素代謝様式には際があり、ショック時の障害を評価する上で重要な知見が得られた。この結果は論文としてまとめて報告した。(麻酔48(8)、830-835,1999) 一方、酸素代謝を臨床的に評価する指標として血中乳酸濃度淋臨床的に使用されてきた。しかし組織中の乳酸濃度の測定はより鋭敏な組織酸素代謝障害の指標になる。とくに筋肉内の乳酸濃度がよい指標になることを敗血症性ショックモデルを用いて明らかにし、これを第3回国際ショック学会で報告した。
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