研究概要 |
血液希釈状態は血中酸素含量が低下するため、末梢組織への酸素供給不足が危惧されるが、主に心拍出量増加などの代償作用が働くと考えられている。しかし、吸入麻酔薬は循環動態を抑制するため、血液希釈状態での深麻酔は心拍出量増加などの代償作用発揮に重大な支障が生じる可能性があるため、今回われわれは、吸入麻酔薬濃度を増加させ低血圧麻酔を行った際の心筋血流を血液希釈状態,非希釈状態に分けて雑種成犬で検討した。心筋血流測定部位は左室領域外層部,内層部および右室領域外層部,内層部とし、測定方法は水素ガスクリアランス法で行った。その結果、ハロセン濃度を上昇させ、麻酔濃度を高めると、血液希釈状態,非希釈状態とも心拍出量減少などの循環抑制が濃度依存的に認められた。Pao_2,Paco_2には大きな変化は認められなかったが、Svo_2の減少は著しかった。一方、心筋血流は、血液希釈状態,非希釈状態ともに麻酔濃度上昇に伴い減少し、いずれの領域でもほぼ同様であった。しかし、心拍出量の変化に対する各心筋血流の変化(血流分布率)で検討したところ、非希釈状態では左室領域,右室領域の外層部で低血圧中有意な増加を示し、他の領域でも増加傾向を示したのに対し、血液希釈状態では全経過有意な変化が認められなかった。以上より、血液希釈状態の安全性の大部分は心機能に準拠しているため、血液希釈状態でのハロセン低血圧麻酔は望ましくないと考えられた。
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