ハロゲン化揮発性麻酔薬は、本来の麻酔作用と共に中枢興奮作用を有すると考えられている。この作用にはグルタミン酸等の興奮性アミノ酸が関与しているとの仮説を立て、これを証明するために本研究を計画し、実施した。 マウスを用いたin vitroの実験系では昨年度に報告したように、4種の麻酔薬(ハロタン、エンフルラン、インフルラン、セボフルラン)および催痙攣性を持つハロゲン化エタン・CCl_2FCCl_2Fが大脳皮質神経終末からのグルタミン酸遊離を促進した。本年度、ラットの脳内に透析用プローベを埋め込むマイクロダイアリシス法によって、in vivoに於けるこれらの薬剤の影響を検討した。前頭葉皮質に留置した透析プローベから得た潅流液(2μl/min)中のグルタミン酸濃度は、対照群で3.1±0.8μM2MACハロタン群で3.3±0.6μM、2MACエンフルラン群で2.8±0.7μM、2%CCl_2FCCl_2F群で3.1±0.7μMであり、統計学的に有意差を認めなかった。 一方、海馬に透析プローベを留置した場合には、2%CCl_2FCCl_2F群で3.5±0.7μMと上昇傾向を認めた。グルタミン酸は神経伝達物質としてのみならず、代謝物質としても脳内に大量に存在するため、麻酔薬や催痙攣薬によって遊離された部分がマスクされてしまうであろう側面は否定できない。そのため、より精密な透析部位の位置決定と、より高感度なグルタミン酸の検出法を必要としている状況である。今後、上昇傾向が認められた海馬での、CCl_2FCCl_2Fによる影響を更に検索し、麻酔薬を含めたハロゲン化エタン、ハロゲン化エーテルの中枢興奮の機序を実証したいと考えている。
|