1. 2系統のマウスを用いて、ハロゲン化揮発性麻酔薬および催痙攣性ハロゲン化エタンによる痙攣誘発試験を行った。臨床濃度のエンフルラン、セボフルラン、イソフルランはddNマウスに後弓反張を誘発し、テトラクロロジフルオロエタン(DF-112)はddYマウスに強直性間代性痙攣を発生させた。いずれの痙攣もグルタミン酸NMDA受容体拮抗薬であるMK-801によって有意に抑制された。また、両系統のマウスの大脳皮質から調整した脳神経終末分画にこれらの薬物を作用させたところ、痙攣誘発作用をもたないハロタンも含めた4種の麻酔薬とDF-112はいずれも、神経終末からのグルタミン酸遊離を薬物濃度に依存して増加させた。催痙攣性エタンDF-112は、同濃度の麻酔薬に比べ特に強いグルタミン酸遊離増強作用を示したが、ハロゲン原子をもたないジエチルエーテルはこの作用を示さなかった。 2. ラットの海馬に微小透析用プローブを挿入し透析液を灌流させ、上記ハロゲン化麻酔薬や痙攣誘発性エタンを吸入させた場合の、脳組織内の各種アミノ酸の変化を調べた。痙攣誘発性エタン:テトラクロロジフルオロエタンは海馬のグルタミン酸濃度を若干上昇させる傾向を示したが、麻酔薬による有意な変化は検出できなかった。 3. 以上の結果より、ハロゲン化揮発性麻酔薬を含むハロゲン化炭化水素やハロゲン化エーテル類の中枢興奮作用には、興奮性アミノ酸であるグルタミン酸神経系の機能亢進が関与している可能性が示唆された。ハロゲン化揮発性麻酔薬の麻酔作用の本態は、GABA_Aおよびグリシン受容体を介したシナプス伝達の抑制であろうと推測されているが、グルタミン酸の遊離過多による興奮性の刺激がこれらの抑制作用を凌駕したとき、行動上あるいは脳波上の痙攣等が生じるのであろうと考えられる。
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