研究概要 |
本研究では,長期透析患者における後天性多嚢胞腎(ACDK)の発生及び癌化(とくに乳頭型腎細胞癌の発生)のメカニズムの解明を目的としている。本年度は主に透析患者の体細胞における先天性染色体異常の探索及びACDKや腎細胞癌に見られる染色体異常の解析を行なった。これまでに透析患者55名から末梢血を,またACDKおよび腎細胞癌を発生した患者5名から末梢血及び腎組織を入手し解析を行なった。その結果,4名に先天性の染色体異常を見いだした。これらのうち1例は♯15染色体長腕に欠失をもつPrader-Willi症候群,1例はXYY症候群であった。残り2例には X;10転座,7;19転座がそれぞれ認められた。腎癌を発生した5例のうち1例の末梢血リンパ球にさまざまな染色体異常が多発するいわゆる染色体不安定性が認められた。 一方,腎細胞癌の解析では,♯10染色体の部分トリソミ-と♯16染色体トリソミ-が1例に,1;10転座による♯1染色体長腕の部分トリソミ-,♯7染色体トリソミ-および♯16染色体トリソミ-が1例に認められた。これらの腎細胞癌は病理組織学的には乳頭型(papillary type)腫瘍であった。♯7や16染色体トリソミ-は散発性の乳頭型腎細胞癌においても高頻度に認められている。残り3例には特徴的な染色体異常は確認されなかったが,1例(1細胞)には♯18染色体トリソミ-が見られた。これら3例はいずれも腎癌疑いということで,現在病理組織学的に検討中である。また,ACDKの解析では5例中1例に♯18染色体トリソミ-が非クローン性の異常として認められたのみで,分裂細胞の多くは正常核型であった。これまでに発見された先天性染色体転座がACDKや腎癌の発生に関与しているのか否か,あるいは透析に至った腎の原疾患に関係しているのかは現段階では不明である。今後さらに症例数を増やし解析・検討する必要がある。
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