研究概要 |
本研究では,長期透析患者における後天性多嚢胞腎(ACDK)の発生及び癌化(とくに乳頭型腎細胞癌の発生)のメカニズムの解明を目的としている。本年度は主にこれまで収集したACDK5試料及び乳頭型腎癌6試料の間期細胞核を対象として,第7及び第16染色体のトリソミ-の頻度をα-satellite DNAをプローブとしたFISH法によって解析した。その結果,第7染色体についてはACDKでは0.2〜3.5%,腎癌では2.8〜5.4%の頻度でトリソミ-が認められた。また,第16染色体のトリソミ-を持つ細胞はACDKでは1.5〜8.5%,腎癌では4.4〜47.6%にそれぞれ認められた。ACDKと腎癌におけるそれぞれの染色体のトリソミ-の頻度を比較すると,明らかに腫瘍におけるトリソミ-細胞が増加していることがわかる。また,第16染色体の方が第7染色体よりトリソミ-の出現頻度が高い。ACDKはその嚢胞壁を形成する細胞に過形成,異形成が認められたりあるいは腺腫が発生する場合があり,いわゆる前癌病変と考えられているが,こうしたACDKに7番や16番染色体のトリソミ-をもつ細胞が既に存在していることは癌化の過程を知る上で興味深い。しかし,現段階ではACDKにおけるこれらのトリソミ-を持つ細胞が癌化した細胞であるのかあるいは前癌細胞であるかは不明である。それを確認するための手段として,腎の嚢胞部分と癌病変部分の病理組織学的な切片標本上でのFISH法による解析が有望である。本年度は,また,マイクロサテライトDNAの多型性を指標として第3染色体短腕に欠失が認められるか否かを3p13領域にLOHを示すと思われるシグナルの減衰が認められた。現在,サザン法により確認を行なっている。本年度はさらに乳頭型腎癌の細胞株を入手できたため,微小核細胞融合法により種々の染色体を移入し,造腫瘍性や細胞増殖性に対する影響を調べている。
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