研究概要 |
我々は膵臓ラ氏島腺腫、褐色細胞腫を合併する家族性の多発性内分泌腺腫症(以下MEN)症例を経験した。本疾患は1)常染色体優勢遺伝の形式をとる。2)神経外胚葉性細胞由来である。3)組織学的には過形成から腺腫への進行を見る。4)多中心性発生を見る。などの特徴を有しておりMENに分類される。しかもMEN type 1,2の主要構成腫瘍を含むことからMEN type 3またはmixed typeと呼ぶことができる。このtypeは世界的に約20例余の報告があるが家族内発生は今回報告した症例を含めて3家系であり非常に稀である。このような家族内発生腫瘍はその遺伝形式より、家系内で共通の遺伝子(いわゆるgrem line)異常が存在することが多く、様々の腫瘍の原因遺伝子の同定の手掛かりとなっている。MENでも同様であり連鎖解析により原因遺伝子はtype 1は11番染色体長腕、type 2は10番染色体長腕に存在するものとされている。さらに第10番染色体長腕ではRET proto-oncogeneが単離されMEN type 2の原因遺伝子として注目されている。この遺伝子は点突然変異による遺伝子の発現異常により腺腫発症に関与すると考えられている。これらの変異はgerm line mutationとして認め、また、typeにより特定codonの変異(MEN type 2Aはexon 11のcodon 634,type 2Bはexon 16のcodon 918)が見られtype別腺腫発生に深く関与すると考えられる。 このようにMENの原因遺伝子が明らかにされつつあるなか、実際の症例においては我々の経験したmixed typeを初めとしていろいろな内分泌腺腫の合併がみられており、それらの検索は充分になされているとはいえない。今回我々は本疾患の家系8人の末梢血より高分子DNAを抽出しMEN type 2で変異が集中しているRET proto-oncogeneのexon10,11,16を対象にPCR-SSCP analysisを行い本疾患におけるgerm line mutationの検出を試みた。 結果はMENの発症を見た2例を含めて検索を行ったいずれのexonにも変異は検出されなかった。このことは本疾患ではMEN type 2の発症に関係する変異の関与は少ないもの考えられるが、Hirschsprung病のように今回検索したexon以外での変異も推定され今後検討の余地はあるものと思われる。さらに本疾患ではMEN type 2に見られる遺伝子異常がないことよりMENの分類上type 2以外の(もちろんMEN type 1でもない)独立した、MENとしての分類が可能と考えられた。
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