男性性機能障害に有効と記載のある蛇床子の薬理効果につき、マウス性行動の変化および内分泌学的観点よりの検討を行い、以下の結果を得た。1.実験的両側停留精巣マウスにおいては、同週齢の正常マウスと比較して、mount回数の減少およびmount潜時の延長が有意に認められ、また、血中テストステロンの低下傾向も認められた。すなわち、従来より造精機能障害モデルとして用いられてきた両側停留精巣マウスが、性機能障害モデルとしても用いることができることが明らかとなった。2.蛇床子の投与により、停留精巣および正常マウスにおいては、mount回数の増加およびmount潜時の短縮が認められた。しかし去勢マウスではこのmount行動への蛇床子の影響は認められず、この生薬の性行動に対する作用が、テストステロン分泌の増加など精巣を介しての作用によることが判明した。3.停留精巣および正常マウスでの血中テストステロンは、蛇床子の投与により上昇した。しかし血中LH、FSHの変動は認められなかった。4.マウスにおけるアンドロゲン標的臓器のひとつである、顎下腺のトリプシン様プロテアーゼ活性値は、停留精巣および正常マウスにおいて、蛇床子の投与により上昇した。5.停留精巣および正常マウスにおける、顎下腺プロテアーゼ活性の電気泳動法的解析においては、蛇床子の投与によるそのザイモグラムの変化は、テストステロン投与による場合と全く同様であった。以上より、蛇床子にはマウスの性行動を亢進させる作用および血中のテストステロン値に対する上昇作用があることが判明し、後者が前者の発現メカニズムのひとつである可能性が示された。また、LH、FSHに変動が認められなかったことから、そのテストステロンに対する効果は、蛇床子が精巣に直接作用して発揮される可能性が高いものと思われた。
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