現在、勃起不全や造精機能障害に対し、臨床的に明らかな有効性をもつ薬剤はほとんどないのが現状であり、われわれはこれまで、和漢生薬のうちでこれらに有効なものを新しい技術を用いて開発することを試みてきた。今回(平成6〜7年度)のわれわれの研究の対象となった「蛇床子」は、古来インポテンスに有効とされてきた生薬のひとつであるが、この蛇床子の薬理効果につき基礎的実験を行い以下の結果を得た。すなわち、正常および実験的両側停留精巣マウスに蛇床子を経口投与すると、1.mount回数の増加およびmount潜時の短縮が認められ、性行動は全体として亢進を示す。2.血中テストステロンレベルは上昇傾向を示す。3.マウスにおけるアンドロゲン標的臓器のひとつである、顎下腺のトリプシン様プロテアーゼ活性値は上昇し、その電気泳動法的解析においても、蛇床子投与によるそのザイモグラムの変化は、テストステロン投与による場合と全く同様である。4.顎下腺における表皮成長因子epidermal growth factor (EGF)のmRNAの発現量は、テストステロン投与による場合と同様、増大する。一方、去勢マウスに蛇床子を投与しても以上の変化は全く認められず、さらにすべての群のマウスにおいて血中LH、FSHの変動は認められない。以上より、蛇床子にはマウスの性行動を亢進させる作用および血中のテストステロン値に対する上昇作用のあることが判明し、後者が前者の発現メカニズムのひとつである可能性が示された。また、LH、FSHに変動が認められなかったことから、そのテストステロンに対する効果は蛇床子が精巣に直接作用して発揮される可能性が高いことが示唆された。以上の研究はすべてin vivoのものであるが、今後はin vitroでの培養Leydig細胞を用いて蛇床子の薬理作用、すなわち蛇床子の精巣におけるテストステロン合成への関与についてさらに基礎的実験を展開する予定である。
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