研究概要 |
1.【目的】脊髄損傷に伴う過活動膀胱に対するカプサイシン膀胱内注入の効果をラットを用いて、実験的に検討する。 2.【方法および結果】雌ラットを用いて、第10胸椎の高さで脊髄を完全切離して、脊髄損傷を作成した。脊髄損傷作成後、1、2、3週の時点で膀胱頂部からカテーテルを留置した後、無麻酔下で持続的に膀胱内圧と排尿量を測定することによって、反射性排尿(過活動性膀胱収縮)の出現する時期を検討した。その結果、脊損後2週目までは、膀胱内に生理食塩水を注入しても膀胱の反射性収縮は認めないが、脊損後3週経過すると、膀胱の反射性収縮が再び出現することが確認された。しかし、残尿が多く有効な排尿は認められず、生理食塩水を注入し続けると尿閉となった。一方、正常ラットを、ハセロン麻酔下で、開腹し、尿道を結紮し、膀胱頂部からカテーテルを留置した。麻酔からの回復後、膀胱内へ生理食塩水を注入し、同注入によって膀胱の律動性収縮が誘発されることを確認した。この律動性収縮を誘発する閾値容量は0.2-0.6ml(平均0.32ml;n=10)であった。この律動性収縮は節遮断薬であるhexamethonium(20mg/kg)または神経毒のtetrodotoxin(10mg/kg)の腹部大動脈内投与によって、可逆性に抑制されたため、神経原性で反射を介するものと考えられた。カプサイシン10^<-4>M/l,0.6mlを膀胱内に注入し、カプサイシンの膀胱内注入がこの膀胱の律動性収縮に与える効果を経時的に観察した。生理食塩水を最大1.2mlまで膀胱内へ注入しても律動性収縮が認められないラットは、カプサイシン注入2時間後には、8匹中1匹のみであったが、24時間後には6匹中2匹、3日後には8匹中6匹と経時的に増加した。 3.【考察】以上の結果から、正常ラットにおいては、カプサイシンの膀胱内投与は、膀胱伸展によって誘発される反射性膀胱収縮を投与直後には抑制しないが、時間の経過とともに徐々に抑制すると思われる。また、ラットにおいては、胸髄損傷後急性期にはヒトと同様に排尿反射は消失するが、損傷後3週までに膀胱の伸展による反射性膀胱収縮が再び出現する。今後は、この胸髄損傷後に再出現する反射性膀胱収縮がカプサイシンの膀胱内投与によってどのように抑制されるのかを正常ラットにおける実験結果と対比して検討してゆきたい。
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