研究概要 |
【目的】我々は、尿路上皮癌の異所性、異時性多中心性発生のメカニズムの解明および新しい診断法の開発を目的として患者尿中の剥離細胞の短期培養を行った。今回は生着した細胞の生物学的特徴の検討、抗p53抗体による免疫細胞化学的解析を行い、臨床応用の可能性を検討した。 【対象と方法】尿路上皮癌患者51例、正常人43例、計94例から自然中間排尿あるいはカテーテル尿(50ml)を採取し、FHerzらの方法に準じ細胞培養を行った。十分な細胞増殖が得られた状態でchamberスライドに継代し最終的に免疫細胞化学染色を行った。【結果】1)初期細胞生着率は尿路上皮癌患者で44例(86.2%)で、正常人では27例(62.3%)であった(p<0.01)。chamberスライド上での最終解析を行い得たものは尿路上皮癌患者で38例(74.5%)、正常人では15例(34.9%)であった(p<0.01)。2)最終的解析が可能であった率は、下部尿路上皮癌患者(n=40,65.0%)に比べ、上部尿路上皮癌患者(n=11,100%)では有意に高かった(p<0.05)。3)最終的解析が可能であった率と腫瘍のGrade,Stage,および尿細胞診の陽性率とは有意な相関を認めなかった。4)最終的解析が可能であった率は、腫瘍が免疫組織学的にp53核染色陰性例に比べ陽性例で有意に高かった(p<0.01)。5)正常人からの培養細胞でp53核染色陽性例は認めなかった(n=7)。6)chamberスライド上の免疫細胞化学的解析の結果は、腫瘍の免疫組織化学染色結果と非常に良く一致した(n=32/34,94.1%)。【結語】1)尿路上皮癌患者の尿中剥離細胞は、正常人の尿中剥離細胞より高い初期細胞生着率およびchamberスライド上での最終的解析率を有し、中でもp53陽性患者ではその現象が顕著であった。2)この系によって非侵襲的に尿路上皮癌の分子遺伝的解析が行える可能性が示唆された。
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