研究概要 |
正常ヒト線維芽細胞由来3番染色体の導入によりヒト腎細胞がん由来細胞株のin vitroにおける細胞増殖特性は特異的に抑制される。これらの細胞クローンを用いて,抑制されれた細胞に特異的に発現する遺伝子をサブトラクション法により6種類単離した。その単離したcDNAについて,各種ヒト腎細胞がん細胞株における発現の有無をRT-PCR法により検索した結果,2種類のcDNA(CL-25,CL-34)においてのみ発現の低下あるいは発現が認められなかった。さらにこの2種類のcDNAについて,ヒト腎細胞がん組織(生検材料,10人の患者における癌部および非癌部)についての発現検索を行った結果,何れのcDNAとも正常腎において発現が認められ,1)CL-25では癌部での発現消失(10例中3例)および発現低下(10例中2例),2)CL-34では癌部での発現低下(10例中5例)が認められた。一方,大腸癌および胃癌由来の細胞株における発現を検索したところ,これらの2種類のcDNAにおいては発現低下あるいは発現の消失が認められた。なお,2種cDNAについての染色体マッピングの結果はCL-34は3p11-q11領域にマップされたが,CL-25についてはマップすることができなかった。今回の解析結果からは,ヒト腎細胞がんにおいて特異的に発現消失するcDNAとの確証を得る事はできなかったが,少なくとも半数の症例においてその発現の低下および消失が認められたこと,ならびに正常腎組織においては発現の認められる新規のcDNAであることから,現在この2種の全長を含むcDNAの単離を行いその性質を明らかにする研究を継続中である。なお,前述したヒト3番染色体導入クローンにおいて継代培養過程で細胞老化誘導がみられ,本年度は腎細胞がん細胞株で発現していたテロメアーゼの発現が3番染色体導入により特異的に消失する新しい知見も得られている。
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