人腎蓚酸カルシウム一水化物(COM)結石は放射状構造などの規則構造を呈し、また人尿中COM結晶の形態は、in vitroで結晶成長に強い抑制作用を有するヘパリン(有機基質成分の一つヘパラン硫酸の近似物質)を添加して得られる“多層化・薄板化"した結晶に類似している。これら形態的・構造的類似性に着目し、すでに得られているヘパリンの作用に関する成果をもとにCOM結石に含まれる有機基質成分が結石形成過程において果たす役割を検討した。ヘパリンを添加して得られる結晶は小さいため、本研究ではグリコサミノグリカンと同様にウロン酸を構成成分とする高分子物質アルギン酸をモデル物質として用い比較的大きい結晶を形成させた。走査及び透過電子顕微鏡による観察では、結晶は微細粒子が薄い層状に密に詰まった構造を呈し、多結晶凝集体であることを示した。またX線回折では、アルギン酸は結晶に取り込まれており、各微細粒子は単結晶で結晶学的方位をそろえて配列されている可能性が示された。これらの結果から、アルギン酸は第一義的にはCOM結晶のある特定の面に結合し、その結晶成長を抑制する。しかし第二義的には新たな結晶核生成の場となり母結晶と方位をそろえた結晶核生成を誘導、あるいは溶液中に発生した微結晶粒子を母結晶に方位を一致させて固定させる凝集作用を行ったものと推定される。このような抑制物質として知られている物質の相反する作用からin vivoの結石形成過程においても有機基質成分が同様な働きをする可能性が示唆され、更に有機基質が結晶の特定面に結合して結晶間に介在することは結晶中の転位発生の誘因となり、亜平行連晶や結石の規則構造の形成機構に係わっていることが推測された。今後は物質の作用機構解明のため、COM結晶面の原子配列と関連させて特にグリコサミノグリカンス分子の側鎖基配列について分子構造の面から検討する予定である。
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