研究概要 |
ラット膀胱癌(BBN発癌)に関する前年度の研究結果に基づいて臨床材料(膀胱全摘術によって得られた膀胱癌組織とその周辺の正常膀胱組織)を対象として種々の増殖因子とその受容体の発現をノーザンブロット法によって調べた。その結果、今回調べた6例すべてにおいて、ラット膀胱癌において発現の増加が観察されたTGF-αとc-metのうちc-met mRNAの含量が、対照部分と比較して癌組織において増加していた。また、ラットの場合と異なり、ヒト膀胱癌においては5.7-kbと7.0-kbの2種類のc-met mRNAが検出され、その量比は試料ごとに異なっていた。TGF-α mRNAはラット膀胱癌において早期にその発現が増加したが、ヒトの場合には発現量が低く、癌化に伴う明らかな変化は検出されなかった。FGF receptor-1とTGF-β type II receptorのmRNAは、ラットの場合と同様、ヒトの膀胱癌においても発現量が減少しており、その他の因子(EGF receptor,EGF,bFGF,KGF,TGF-β1,HGF)のmRNA含量は、癌組織と対照部分の間で差が認められないかあるいは検出限界以下であった。ヒト膀胱癌細胞(UM-UC-3とT-24)に対するHGF(c-metのリガンド)の作用を調べた結果、両細胞ともにHGFの存在下でその運動性が亢進した(Scattering活性)。ラットBBN発癌にとどまらず、ヒト膀胱癌組織においてもc-metの発現が亢進しているという結果は、膀胱癌の発生と進行におけるHGF-c-met系の重要性を示している。特に、HGFが培養膀胱癌細胞の運動性を亢進させることから、膀胱癌細胞の浸潤と転移にこの系が関与している可能性が高い。
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