研究概要 |
膀胱癌の発生と進行に関与する可能性のある増殖因子を検索する目的で、ラット膀胱癌組織と臨床材料を用いて、主要な増殖因子とその受容体の発現を正常膀胱組織と膀胱癌組織の間で比較した。N-butyl-N- (4-hydroxybutyl) nitrospamine (BBN)による実験的膀胱癌(ラット)の系では、BBN投与20週間で全例において肉眼的にも膀胱腫瘍の発生が認められた。正常膀胱組織とBBN処理したラットの膀胱組織からmRNAを抽出しノーザンブロット法によって増殖因子とその受容体の発現を比較した結果、TGF-αとc-metのmRNA含量がBBN処理によって増加した。また、EGF receptor mRNAもBBN処理によって増加する傾向を示した。一方、FGF receptor-1とTGF-β type II receptorのMRNAはBBN処理後減少し、その他の因子(EGF,bFGF,KGF,HGF,TGF-β1)のmRNA含量はこの処理によって影響を受けないか、あるいは測定限界以下であった。臨床材料(膀胱全摘術によって得られた膀胱癌組織とその周辺の正常膀胱組織)の場合は、今回調べた6例すべてにおいてc-met mRNAの含量が増加していたが、TGF-α mRNA含量には差が認められなかった。また、ラットとヒトの膀胱癌細胞株に対するHGF (c-metのリガンド)の作用を調べた結果、HGFによってこれらの細胞の運動性が亢進した(Scattering活性)。これらの結果は、膀胱癌の発生と進行におけるTGF-α-EGF receptor系とHGF c-met系の重要性を示している。特に、HGFが培養膀胱癌細胞の運動性を亢進させることから、膀胱癌細胞の浸潤と転移にこの系が関与している可能性が高い。
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