研究概要 |
尿路留置カテーテルに合併しやすい緑膿菌感染の病態を解明し,有効な治療法の開発を目的とした研究では、人工尿と簡単な実験装置を用いて形態的,化学的組織から臨床例と類似したカテーテル感染モデルが作成できることが確認された。本モデルを用いて各種抗菌薬,蛋白分解酵素単独ないし併用によるバイオフィルム緑膿菌殺菌効果を検討した結果,抗菌薬の中ではβラクタム系やアミノ配糖体系に比較し,キノロン系薬剤の殺菌効果が優れることが確認された。しかし,臨床的に到達可能な薬剤の尿中濃度,緑膿菌の耐性傾向から,キノロン系薬剤により臨床的にも高い有効性を期待することは困難と考えられた。各薬剤を臨床的に到達可能な尿中濃度に設定し,抗菌薬どうしまたは蛋白分解酵素との併用効果を検討したが,高い有効性が期待できる薬剤の組み合わせは認められなかった。薬剤によるバイフィルム形成緑膿菌の治療には限界が認められることから,その予防の重要性が認識されたため,緑膿菌の付着とバイフィルム形成に及ぼすカテーテルの性状についても検討を加えた。ラテックス,シリコン,テフロンカテーテルに比べ,親水性カテーテルや抗菌物質(銀,プロテイン銀)で被覆されたカテーテルは,緑膿菌の付着,バイフィルム形成の抑制効果を示すが,その効果は相対的であった。 尿路性器感染症のなかでは,病態の解明が不十分な精巣上体炎について動物モデルを作成し,抗菌薬の病巣移行と病理組織学像を検討した結果,家兎精巣上体炎においては,キノロン系抗菌薬の病巣移行が最も良好であること,炎症により非可逆性の造精障害が発生することが明らかにされた。
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