正常腎組織、腎細胞癌の原発巣および転移巣の組織につき、抗EGFR、抗EGF、抗TGF-αのモノクロナール抗体を用い処理した後、ABC法にて発色させ、その染色性につき検討した。その結果、正常腎組織では尿細管、集合管、血管、糸球体でEGFRがわずかに染色される程度であったが、腎細胞癌組織では原発巣も転子巣も一様に濃染された。一方、EGFは正常腎ではヘンレ上行脚、遠位尿細管でわずかな染色性がみられたが、腎細胞癌では良く染色され、特に転移巣では原発巣より強い染色性が観察された。TGF-αについてみると正常腎では全く染色されないが、原発巣では染色され、転移巣で特に強い染色性を示した。この染色性はEGFより強いものであった。以上の事実は腎細胞の悪性化とともに、増殖因子のオートインダクションが起きていることを示唆するものであり、また転移巣においては細胞増殖に関しTFG-αを主とするオートクリン機構の存在することを示したものと思われる。 52症例の腎細胞癌のEGFRに対するScatchard分析にて、EGFRが陰性の14症例は遠隔転移、所属リンパ節への転移がみられず全例生存していることが確認されたが、死亡例の13例は全例EGFRが陽性であった。これらより腎細胞癌組織におけるEGFR存在は症例予後決定因子の一つであると考えられた。
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