腎細胞癌患者から得た腫瘍組織の膜分画について、アイソトープラベルのEGFを用い上皮増殖因子受容体(EGFR)に対するEGFの解離係数、最大結合量を検討した結果、腎細胞癌症例においてEGFRの検出されない症例もみられたが、52例中38例にEGFRが検出され、そのKd値は10^<-10>M、最大結合量はfmcl/mg蛋白のレベルであった。なお正常腎ではそのほとんどにEGFRは検出されなかった。腎細胞癌の病理所見とEGFR量について検討すると、組織像ではFuhrmanの核型度と正の相関することを除けば、他の項目と相関はみられなかった。なおpM1群ではpM0群より有意に高いEGFRが存在することが示された。52例のうち13例が死亡しているが、これらはすべてEGFR陽性例であった。これらの事実は予後因子としての病理組織の限界を示すと同時に、腫瘍の生化学的評価の有用性を示したものと考えられた。また、転移巣と原発巣とのEGFRレベルには両者に差はみられなかったが、インターフェロン投与後に摘除した転移巣につきEGFRレベルを測定すると、そのレベルは明らかな低下を示した。これはインターフェロンの抗腫瘍効果がEGFRを介することを示唆するものであり、興味深い知見であった。 正常組織、および原発巣、転移巣組織につきEGFとTGF-αを染色し、その染色性につき比較、検討を行った。正常組織ではTGF-αは染色されなかったが、EGFは尿細管、糸球体でわずかに染色された。一方、腎細胞癌の原発巣、転移巣組織ではEGFおよびTGF-αのいずれも染色されたが、その程度をみると転移巣での染色性は原発巣よりはるかに高度であった。特にTGF-αの染色性にその傾向が顕著に認められた。以上の事実は転移巣において腫瘍増殖にオートクリン機構が関与していることを示唆するものであった。
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